mnre's diary

むぬれと読みます

クズの本懐

最終巻を読み終わったので取り急ぎ感想をメモしておきます。ノイタミナ枠でのアニメ化から早六年ということで、当時中学生の私には分からなかった登場人物の細々とした心情や行動に共感したり反発したりと、自らの成長も思いがけず感じてしまいました。ちなみに全巻友達から貰ったものなので、快く譲ってくれたH君にこの場を借りて感謝します。

前半の片思いするメンヘラたちの描写は実に見事。花火や麦はもちろん、特に秀逸なのがえっちゃん。これはヤンデレといったほうが適切だろうが、同性愛者という属性を作者が上手く活用して、相手からの無意識的・意識的な拒絶、社会からの隔絶と無理解をスパイスにえっちゃんの狂気性をより一層際立たせることに成功している。最後まで全く報われることはなかったことまで含めて、このキャラが一番好き。

また、麦と花火の非対称性に注目したい。例えば麦は女性経験豊富で茜先生ともセックスをしているが、花火は作中を通して貞節を守っている。あるいは片思われ相手からの好意の受け止め方。作中では二人の共通点の描写が多かったが、実はそこまで似た者同士というわけでもなさそうだ。最終巻で二人が決別するシーンの心内語の微妙な違いにも現れている。もちろん、そもそも性別が違うということも大いに関係あるだろうが、その違いがこの作品を面白くしている。

恋敗れたえっちゃんとモカのサブヒロイン二人組の成長も良い。今作で最も成長したのがモカだろう。セックスを拒絶されたことで、長年引きずった麦への好意が、いつの間にか被征服(による麦との対等な関係の構築)欲と埋没費用への執着とに分解されていたことに気づく。最終巻では文化祭のステージでウエディングドレスに身を包むモカの描写がなされている。麦のためにと自己研鑽を積んできた結果着実に容姿と自己肯定感を洗練させた彼女こそ、登場人物の中で一番未来が明るいと私は確信している。ついで、えっちゃんは本当に健気だ。花火から同性の友達としても身体を慰める相手としても体よく利用され、最終的には友達に戻ることを提案されている。一番報われていない。ただ、前半でかなりのヤンデレ要素があった分最終巻でのあっさりとした立ち直りには少々困惑した。

茜先生も同様で、7巻かけてヒール的「茜理論」を構築してきたと思いきや、最終巻であの変わりようである。鐘井先生が余程のテクニシャンか素晴らしいブツをお持ちだったとしか考えられない。メイン4人の内部的変化に対する動機や説明づけが全体的に甘く、そこが結末への納得感がいまいち得られない理由になっていると思う。しかし、ハッピーエンドとしては微妙だが、バッドエンドとして捉えれば素晴らしい終わり方ではないだろうか。今後幸せになりそうなのがモカしかいないのだから。